「……ひょっとして、拓海?」

「そうだよ。久しぶり」


 加藤さんから助けてくれた長身の男性は、大学の同窓生である祖父江 拓海だった。あの頃と変わらない、誰をも魅了した爽やかな笑顔で私に向かい合う。

 久しぶりに見る彼は、元から端正だった顔立ちはグッと精悍さを増し、大人の男性として十分すぎるほどの魅力を湛えていた。普段から鍛えているのか、長身にほどよく筋肉のついた体が仕立てのよいスーツによく馴染んでいる。


「大学の卒業以来だから、……5年ぶり?」

「もうそんなに経つんだな。元気そうでよかった」


 優しく微笑まれて、胸がちくりと痛んだ。

 彼と最後に会ったのは、大学在学中に行われたサークルの飲み会だ。

 あの日、私は彼に向かってあんなにひどいことを言ったのに、どうして今も変わらず笑いかけてくれるのだろう。


「……あれからどうしたのか、夏美のことがずっと気になってたんだ」


 学生の頃から、人を思いやる気持ちが強く、誰にでも優しく接する人だった。
そんな彼のことを、私はひどい言葉で傷つけたのだ。目を合わせる勇気がない。

「夏美?」

 以前と変わらない気安さで、拓海が名前を呼ぶ。私は、おずおずと顔を上げた。拓海のスーツの胸元で、金色のバッジがきらりと光る。


「……拓海、夢を叶えたんだね」