拓海はこの一年でさらに広範囲の地域を任されるようになり、アメリカのみならずアジア各地へも飛び回っている。ただ家族との時間も大切にしたいからと、週三日通っていた、常駐の顧問弁護士の仕事は、他の所属弁護士に振り分けてもらったらしい。
以前より出張は増えたけれど、それ以外のときは早く帰って来てくれる。
夕食の準備をしていると、「せんせい、いるー?」と男の子の声がした。
「はーい」
「俺、優斗だよ。先生、囲碁しよう」
縁側から近所に住む小学生の優斗くんが、顔を覗かせていた。見知らぬ男の子を二人、連れている。
「優斗くんこんにちは。その子たちは?」
「学校で九路盤やってたら、やってみたいって言ったから連れてきたんだ」
ふたりとも、「こんにちはー」と元気な声で挨拶をしてくれる。
夕食の準備は一旦中断して、子どもたちに囲碁を教えることにした。かたわらで、虹も見守っている。
子どもって、本当に飲み込むのが早い。私と優斗くんとで簡単にやり方を教えると、すぐに九路盤が打てるようになった。
「ぎゃー、負けた。難しい!」
「優斗すげー、強えーんだな」
楽しそうに囲碁を打つ子どもたちを、あたたかな気持ちで眺める。教えることの楽しさを再び私は噛みしめている。
「じゃあね先生。また来るー」
「はーい、またね」
虹を抱いて子どもたちを玄関先で見送った。家の中に入ろうとすると、外からエンジン音がする。玄関から先に出られないこなつが、急にそわそわし始めた。


