小鳥のさえずりで目が覚めた。
庭の柿の木の枝で、シジュウカラが鳴いている。薄っすらと目を開けると、淡い日の光が視界に入り込んできた。
洗濯物を干してちょっと休憩しているうちに、ついつい縁側で寝てしまったらしい。四カ月になったばかりの虹が、縁側に広げた布団の上で、「あーうー」と空に向かって手を伸ばしている。背中が温かいと思ったら、こなつが私にくっついて一緒に惰眠をむさぼっていた。
「なにを取ろうとしてるの、虹」
話しかけると、虹は私を見てにっこりと笑った。
長女の虹の誕生を機に、私と拓海はそれまで住んでいた都心のタワーマンションから、祖父が住んでいた郊外の一軒家に引っ越した。もちろんこなつも一緒だ。
少しでも環境のいいところで虹を育てたいと拓海が望んだのだ。そして、囲碁教室再開に向けて、準備を始めよう、そう言ってくれた。
正式な再開はまだだけれど、時間のあるときに、近所の子ども達を相手に囲碁を打っている。子ども達は、虹のこともかわいがってくれる。虹はすっかりこの辺りの子どもたちのアイドルだ。
迷った末に、榊物産は退職した。生まれてみれば虹がどうにもかわいくて、離れ難かったのだ。ただ教室が軌道にのるまではと、綾さんの仕事の一部を在宅で請け負っている。
今の私は、囲碁教室の先生(予定)プラス、在宅パートワーカーだ。


