「なんか夏美……肝が据わってない?」
「どうだろう。ママになるんだって思ったからかな」
まだ吐き気や倦怠感があるくらいで、妊娠しているという実感はない。でも妊娠が発覚してからの数時間の間に、喜びで体中に力が漲(みなぎ)ってきたような気がするのだ。
「すごいな、母親って。それに引きかえ俺は、ホント情けない」
「まだまだだよ。きっと予想もつかないことがこれからたくさんある」
私達にできることは、事実を受け入れて、いざ生まれた時にあたふたしないように、万全の準備をすることだけだ。
「焦らずにいこうよ、これからゆっくりパパとママになろう」
「……そうだな」
拓海が、そっと私の肩を抱き寄せる。私も甘えて、彼の肩に頭を載せた。
すごいでしょ、ママはね、こうしてパパに寄り添っているだけでとっても安心するの。まだ見ぬ我が子に、そう話しかける。ゆっくり待ってるから、あなたもいつかパパとママに会えることを楽しみにしていてね。
「夏美、お腹触ってみてもいい?」
「いいけど、まだなんにも分かんないよ」
「それでもいいんだよ」
おそるおそる、拓海が私のお腹に触れる。
「ここにいるんだな。俺たちの子どもが」
「……楽しみだね」
一年もしないうちに、私たちに家族が増える。今はまだ想像もつかないけれど、とてつもなく幸運な奇跡が私たちに訪れたような気持ちがした。


