お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~


「しっかりして、拓海。あなたはもう父親になるのよ」

「俺が、父親に……」

「そう、夏美さんはもう、ひとりの体じゃないの。妊娠は病気じゃないなんて言い方をする人もいるけれど、ママの体にもそれなりのリスクがあるの。ちゃんと労わってあげなきゃダメ」

 すごいな佐奈さん、まるで看護師さんのように、テキパキと拓海に指示を出している。

「はい、分かりました……」

「分かればよろしい」

 うんうんとうなずいて、「夏美さん、拓海のことを頼みます」なんてそれって逆じゃない?なんて言いたくなるようなセリフを残して、佐奈さんは帰って行った。


 ようやく正気を取り戻したのか、拓海はソファーに腰を下ろした。我に返って急に恥ずかしくなったらしく、両手で顔を隠して身もだえている。

「あー、恥ずかしい。五つも下のやつに説教されて」

「珍しく取り乱してたね」

「言わないでくれ、自分が一番わかってるから」

「でも、私は嬉しかったけどね」

 私が言うと、拓海は顔から両手を離した。私の顔を見て、「本当?」と訊いてくる。

「電話切られちゃった時の方がショックだったよ。拓海には、赤ちゃんよりも仕事の方が大事なのかな、なんてちょっと思ったから……」

「そんなわけないだろ!」

「うん、まあそう思ったんだけどね」

 返事をする私を、拓海がまじまじと見る。