『もしもし夏美? 大丈夫か』
「うん、もう大丈夫。それでね、聞いてほしいことがあるの」
『どうした?』
「あのね、赤ちゃんができたみたいなの。調子が悪かったのも、そのせいみたいで……」
『わかったーー』
拓海が返事をしたきり、ぷつっと通話が切れてしまった。
「あれ、拓海?」
「どうかしたんですか?」
「電話が切れちゃったみたいで……」
どうしてだろう。もしかして、大事な会議中とかだった? 仕事の邪魔をしてしまったのだろうか。心配する私に、「拓海はバカだわ。妻と子ども以上に大切なものなんて、この世にはありません!」佐奈さんがはっきりと言い放つ。
佐奈さんがあまりにバッサリと言いきるので、思わず笑ってしまった。まあ、焦らなくても、そのうち連絡がくるだろう。
「そうとわかれば、診察を受けなくては。夏美さん、ぜひうちの病院を使ってください。ちょうど産科が新設されたばかりで、腕のいい先生方をたくさん引き抜いてきたのよ。施設も充実してるの、見て」
佐奈さんが鞄からタブレットを取り出して、病院のホームページを見せてくれた。綺麗で清潔そうな個室や、分娩室が映っている。
「わあ、よさそうですね」
「特におすすめはこれ」
そう言って次に見せてくれたのは、お祝い膳のページだった。
「これは、赤ちゃんを産んだあとのご褒美に、病院からサービスされるものなの。毎日の食事も充実していて、三時にはシェフ手作りのお菓子も出るんですよ」
それは、なんて素敵なところだろう。俄然興味が湧いてくる。
「でもまずは、お医者さまの診察ね。拓海と話し合って、よさそうな日を決めておくといいわ」
「すごいですね、佐奈さん。頼りになる」
病院の売り込みもばっちりだ。佐奈さんがブレーンにいれば、もっと病院を大きくできるんじゃないだろうか?


