「うわ、全然気づいてなかった」
「すごい剣幕で電話してきたのよ。倒れてるかもしれないって」
真っ先に思い浮かんだのが、佐奈さんだったのだろう。結婚後、佐奈さんと湊人さんはここから電車で二駅の街に住んでいる。
「熱はないみたいね。夏美さん、なにか食べられますか?」
佐奈さんなりに考えて、色々買ってきてくれたらしい。でも今はどれも、喉を通りそうにない。
「ごめんなさい、ちょっとムリかも……」
「なにかドリンクは?」
「飲み物なら」
そう言って、スポーツドリンクをもらったけれど、飲み込むことすらできずに、えづいてしまった。背中をさすりながら、佐奈さんが私の顔を覗き込む。
「……夏美さん、つかぬことをお伺いしますけど、来るべきものは来てます?」
「来るべきもの……、あ!」
そういえば、式の直後にあったきり、生理が来ていない。
「思い当たるふしがあるのね」
「あ、あります……」
「わかりました。検査薬を買ってきます」
私なんかより、ずっと年下の佐奈さんの方がよっぽどしっかりしている。佐奈さんが買ってきてくれた薬を試すと、見事に陽性の反応が出た。
「夏美さん、おめでとうございます」
「え?」
「赤ちゃんができたんですよ! 拓海にも電話しなきゃ」
「あ、ちょっと待って」
電話をかけようとした佐奈さんを慌てて引き留めた。
「報告なら、私が」
「あ、そうですよね」
脇に置いておいたスマホを取り、コールを鳴らす。三度も鳴らないうちに、拓海が電話に出た。


