お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 拓海の前まで来ると、父が組んでいた腕を外した。ほんの少しだけ心細さを感じたのも束の間。

「……娘をよろしく」

 父が、本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、私を拓海に託した。拓海がゆっくりと頷くのを見届けると、父は母の待つ親族席へと戻っていった。

 拓海と向かい合い視線を交わした後、ゆっくりと体を祭壇へ向ける。私が呼吸を整えるのを見計らって、神父さまが誓いの言葉を話しはじめた。

「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか」

「誓います」

 一呼吸置いたあと、一言ひとこと噛みしめるように、拓海が言う。

 同じように私も問われたあと、

「……誓います」

 緊張と高揚で震える声で、なんとか拓海への永遠の愛を誓うことができた。

 これで三度目となる指輪の交換をしたあと、誓約書にサインをする。

 神父さまが誓約書を掲げ持ち、「祖父江拓海さんと清家夏美さんの結婚を、ここに認めます!」と高らかに宣言した。


 チャペルの中に、歓声と拍手が鳴り響く。たくさんの人たちに祝福され、私たちは誓いのキスを交わした。