とうとう、式が始まった。父と並んで、扉の前に立つ。アナウンスが聞こえ、音楽が流れ出した。
「夏美、緊張してるか?」
「してるよ!」
この期におよんで、緊張しないわけがない。ついいつもの調子で父に言い返してしまう。
「そうか、父さんもだ」
ほら、と腕を出され、手を伸ばす。緊張していると言った通り、父の腕は小刻みに震えていた。
「お父さん」
「なんだ」
「今まで心配かけてごめんね」
ここに立つまで、挫折や失敗を繰り返してきた。父は言葉少なな人だけれど、愛情深い人だ。きっとたくさん心配してくれたに違いない。
「バカだな、こいういときはありがとうございましたと言うんだよ」
そう言った父の声も震えていた。
「お父さん、今までありがとうございました。私、幸せになります」
父からの返事は、もう聞こえなかった。
「扉開きます」
介添えのスタッフに声をかけられ、扉が開く。全開になると、わあっと中から歓声が聞こえた。
父に手を引かれ、バージンロードを歩く。一歩、また一歩と拓海がいる祭壇に近づいて行く。
ベールで霞む視線の向こうに、愛しい人が立っていた。
拓海は私を見てほんの少し目を見開くと、満足そうに微笑んだ。その目が、『綺麗だよ』と言ってくれている気がする。
よかった、拓海も気に入ってくれた。少しだけホッとして、先ほどよりもスムーズに歩みを進めることができた。


