結婚式の準備をしていた時「なにかやりたいことはない?」と訊いてくれた拓海に、私はひとつだけお願いをした。
お義父さまとの結婚のために『スタイリストになる』という夢を諦めたお義母さまに、一日だけでもいいから、夢を叶えて欲しかったのだ。
私がお願いすると、拓海もプランナーさんも、……そしてお義母さまも、快く応じてくれた。
「お義母さま、こんなに綺麗にしてくださってありがとうございました」
「夏美ちゃん、本当に綺麗よ」
お義母さまも感極まったのか、目に涙を浮かべている。
「お礼を言うのは、私のほう。昔置いてきた夢を叶えてもらって、本当に感謝してるわ」
「私、お義母さまの腕を信頼していますから」
私が言うと、お義母さまはとうとう我慢できずに泣き出してしまった。
なかなか泣き止まないお義母さまをなんとか宥めて、控えていたお義父さまと湊人さんに託した。お義母さまも自身の準備がある。
入れ替わるように、実家の両親が入ってきた。私の姿を見て、息を呑んでいる。
「……ああ、おじいちゃんにも見てもらいたかったわねぇ」
祖父の遺影を抱え、母までもが泣き出してしまった。私だって、そのことをどれほど願ったかわからない。
今わの際にいながら、孫娘である私の身を案じ、家族だけでなく、自分が信頼していた弟子でもある榊のおじさまにまで、私のことを託してくれたのだ。
こういう立場になって、私は今まで以上に家族からの愛情をひしひしと感じていた。


