「ブーケトス、私に向かって投げること」
「えっ、綾さんブーケトスに参加するつもりなんですか!?」
「そうよ、悪い? 私だってそろそろ本気で幸せになりたいのよ!」
冗談かと思いきや、案外本気で言っているみたいだ。これは事前に練習して、ちゃんと綾さんのところに飛んでいくようにしなくては。あとからなにを言われるかわからない。
「了解しました」
二人で談笑していると、綾さんの机の内線が鳴った。
「はい、秘書室堂上です」
『堂上くん、夏美ちゃんはまだなのかね?』
受話器から漏れ出る声に、私と綾さんは顔を見合わせて笑う。
「申し訳ありません、すぐ入られます」
受話器を置いて、綾さんが私の背中を押した。
「さ、行って。社長ったらそわそわしてさっきから落ち着きがないの」
この扉の向こうにも、私の幸せを願ってくれている人がいる。
綾さんに丁寧にお礼を言って、私は社長室のドアをノックした。


