「社長がお待ちかねよ」
社長室に入る前に、「今日は白銀堂のどら焼きがあるわよ」と耳打ちしてくれる。
「その前に、綾さんにも」
そう言って、私は鞄の中から結婚式の招待状を取り出した。
「綾さんのおかげで、ようやくここまで来れました。ぜひ出席してください」
招待状受け取ると、綾さんは目にうっすら涙を浮かべている。
「鬼の目にも涙……」
「なによ、可愛くない後輩ね!」
私のジョークに、ポカリと頭を打つ真似をする。
「ぜひ参列させてもらうわ」
「ありがとうございます。友人代表挨拶もお願いしますね」
お願いすると、目をぱちくりさせている。
「わ、私が?」
「もちろんですよ。綾さん以外に誰がいるっていうんですか」
私と拓海の再会から、ずっと見守ってくれていたのだ。綾さん以上の適任はいない。
「……嬉しい。喜んで受けさせていただくわ」
「よかった。ありがとうございます」
「ただし、交換条件があるの」
「えっ、交換条件ですか?」
いったい、なにを言われるのだろう? 綾さんの豪快な性格を知っているだけに、身構えてしまう。


