「信じられない。お休み一日まるまるムダにするなんて」
「ムダってことはないだろ」
ぷりぷりと怒る私を見て、拓海がぷっと噴き出した。
佐奈さんにあんなに意気地なしだといじられていた拓海だけれど、それも彼の一面に過ぎず。
時と場合によっては、かなりのSっ気を発動する。ここ数日でわかったことだ。
「今日はちゃんとつきあってやるから、いいかげん機嫌なおして」
いつの間に買いにいったのだろう。冷凍庫の中から新商品のアイスバーをちらつかせて、私をうかがう。
「なによ、こんなものに騙されないんだからね」
なんて言いつつ、私は拓海からアイスバーをもぎ取った。
「うわっ、美味しいね。これ」
「人気商品で、コンビニでも品薄らしいよ。たまたま見つけて買えたからよかったけど」
なんて言いつつ、アイスを食べる私を嬉しそうに見ている。
「拓海、また見てる」
そんなに見られると、アイスも喉を通らなくなる。まあ、そんなことしてる間に口の中で溶けちゃうけど。
「だって嬉しくて信じられないんだ。夏美がここにいることが」
いまだに? だってもう一緒に暮らしはじめて三ヵ月は経ってるよ!?
「捕まえるまでに、やたらと時間が経ったからね。もう二度と逃げないように、寝室にでも閉じ込めておきたいくらいだけど」
「やめて! 背筋がぞわってする」
今の拓海なら、それくらい本当にやりかねない気もする。
当の拓海は、半ば本気で怯える私を見ては、けらけら笑っている。
「冗談だよ。食べ終わった? そろそろ出かけようか」


