「もうすぐお客様がいらっしゃるのに蛍光灯が切れそうだなんて言われたら、たとえ他の仕事を放ってでも行くに決まってるじゃないですか。庶務係なんだから」
私の庶務係としての使命感を甘く見ないでほしい。たとえ物品倉庫の整理中だったとしても、山のような郵便物の仕分け中だったとしても、私は自分の仕事を置いて蛍光灯を替えに駆けつける。
「すぐ甘いものに釣られるし」
「目の前にニンジンぶら下げたのは綾さんの方でしょ」
自分で釣っておいて、なにを言うのだ。ムッとして、ローストビーフをつまみにビールをぐいぐい飲み干した。
「すみません、ビールおかわり!」
「あ、私も!」
私と張り合うように綾さんがビールジョッキを高く掲げる。榊物産一の美女なんて言われているくせに、ずいぶん男前な人だ。でも、そんなサバサバした綾さんのことが、私も大好きなのだ。
無言のままローストビーフの皿をテーブルの中央に戻すと、綾さんが頬を紅潮させた。
「……いいの? 食べるわよ」
「どうぞ、お好きなだけ」
華奢で可憐な見た目に反して、綾さんは肉食女子なのだ。もちろん食事に限ったことではない。綾さんの恋バナ……というか、ある意味武勇伝が、私たちには最高の酒の肴なんだけれど。
今日のメインはやはり私、らしい。


