お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~



「本当にごめんね。許して夏美ちゃん」

 終業後、綾さんに呼び出された私は、会社からほど近いスペインバルに出向いた。

 拓海との再会は、やはり仕組まれたものだった。絶対に私を呼び出すようにと、おじさまが綾さんに頼んだらしいのだ。

加藤さんとのお見合いの顛末を聞き、拓海との出会いを「これは運命だ!」と勝手に決めつけたおじさまは、執念で拓海のことを探しだした。

 社長命令に背けずやむなく任務を遂行したものの、私がお見合いから逃げ回っているのを見てきた綾さんは、良心の呵責に苛まれたらしい。お店に入るやいなや、すべてを白状した。


「だからって、羊羹一切れですまそうってのはあんまりですよ」

「わかってるわよ。今日はおごる。好きなだけ飲んで食べて」

「やったー! 綾さん太っ腹」

綾さんもこう言っていることだし、今夜は、思う存分飲んで食べることにする。


「だいたい、夏美ちゃんは人がよすぎるのよ」

「えーっ、この期に及んで私のせいですか?」

 お店の名物である温泉卵がのったローストビーフを摘みながら、綾さんが言う。

「あっ夏美ちゃんたら、なにするの!」

 カチンときて、綾さんの前からローストビーフの皿を遠ざけた。毛穴なんて一つも見当たらないよく手入れされた頬を膨らませ、綾さんが抗議をする。