お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

「実は、清家さんとは大学の同期なんです。所属していたサークルも一緒で」

「そうだったのか!!」

 おじさまの瞳がきらん! と輝いた。

 この顔は、またよからぬことを考えているに違いない。早々にこの場を抜けださなくては!

「おじさまごめんなさい。実は、もうすぐ会議に入らないといけなくて」

 腕時計をチラリと気にして、二人に申し訳なさそうな顔を作ってみせた。
 会議なんてもちろん嘘だ。庶務係の、しかも下っ端の私が会議に参加する機会なんてほとんどない。

「旧知の友人と久しぶりにゆっくり会えたんだろう? 会議なんて少しくらい遅れてもいいじゃないか」

「そういうわけにはいきませんよ」

 社長のくせになんてことを言うんだ。おじさまにそっと非難の眼差しを向ける。

「ううむ……、残念だが仕方ないな」

微妙な殺気を敏感に感じ取ったのか、おじさまは大人しく引き下がってくれた。

「拓海も本当にありがとう。また会えて、ちゃんとお礼が言えてよかった」

 拓海とは、もう会うこともないだろう。

「ああ俺も。また会えてよかった。そのうちゆっくり食事にでも行こう」

「……ええ、そうね。ぜひ」

 私なんかがどの面を下げて? 拓海だっておじさまの手前、きっと社交辞令で言っているのだろう。

「それじゃ、失礼します」

内心気まずさでいっぱいだった私は、短く挨拶をして社長室から逃げ出した。