「いつも言ってますよね? 私には忘れられない人がいるからお見合いはできないって」
もちろんこれは、お見合いを回避するための嘘だ。そう言って毎回断ってばかりいたから、加藤さんのときみたいにおじさまからだまし討ちにあってしまったのだけれど。
「そんなこと言って、夏美ちゃんは一生一人でいるつもりかい」
「それは……わかりません。でも今はまだ、結婚なんて考えられないんです」
これは、今の私の正直な私の気持ちだ。そりゃあいずれは結婚したいとは思うけれど、仕事は楽しいし、今はまだそんなに結婚を急ぐ気はない。
「でも私は、君のおじいさんから託されたんだ……」
「おじさま、これは私の人生なんですよ?」
おじさまが祖父のことを慕っていて、使命感に駆られているのもわかる。私の年齢的にも、もっと異性との出会いに積極的であるべき……というか、このままじゃろくに恋愛経験もないまま30代に突入しちまうぞ! と心配されているということも。
「いいかげん放っておいて――」
「お話中申し訳ありません。失礼します」
ドアをノックする音が聞こえて、綾さんが顔を出した。申し訳なさそうに、眉尻を下げている。
「社長、祖父江様がいらっしゃいました」


