自慢じゃないけれど、私は28にもなって恋愛経験がほとんどない。

 プロ棋士を目指していた頃は、囲碁漬けの毎日だったし、社会人になったらなったで、この職場だ。近くにいるのは既婚者ばかりだし、出会いなんてそうそうない。

 こんな私でも、恋愛も経験せずにお見合いで結婚というのには、さすがに抵抗がある。いつかは結婚するのだとしても、せめて恋愛の一つや二つくらい経験してみたい。

 そんな考えを知る由もないおじさまは、私の将来を案じて次から次へとお見合いの話を持って来るのだ。これが辟易せずにいられようか。


 一度退室した綾さんが、つやつやの羊羹と冷たい緑茶持って戻って来た。まるで来客のような扱いで気が引ける。
だけど、角屋の羊羹にはなんの罪もないもんね。

「ありがとうございます。いただきます!!」

 水まんじゅうを2つも食べちゃったけれど、角屋の羊羹なら余裕で入る。ソファーにかけると、私は早速かぶりついた。

「美味しーい! この上品な甘さがたまりませんね」

「そうかいそうかい。なんなら私の分もたべるかい?」

 自分の分の羊羹を差し出そうとするおじさまをジッと睨む。

「……おじさま、先日の件、私怒ってるんですからね」

 甘いもので釣ってご機嫌を直してもらおうなんて、考えが甘すぎるのだ!
……まあ、いらないというのならいただきますけど。