「君、このあと打ち上げは?」

「すみません。ちょっと用事があって」


 カウンターに出しっぱなしにしていたスマホが、短く震えた。通知が一瞬浮かんで、画面がすぐ暗くなる。

「用事って、ひょっとして旦那か」

 誰からの通知か見えたわけでもないだろうに、聖司さんは察しがいい。

「はあ、まあ……」

 気恥ずかしくて適当に濁す私を一瞥すると、聖司さんはまた口を開いた。


「湊人から聞いたよ。拓海くんとは大学にいた頃からのつき合いだって言うが、本当か?」

 いきなり核心をつくようなことを訊かれ、ぎくりとする。プロへの道を逃すまで、私と聖司さんはつきあいがあった。私のプライベートを、彼も多少は知っているのだ。

「あの頃の君はプロになれるかどうかの瀬戸際で、男に現を抜かすような暇はなかったはずだが」

 返す言葉を思いつかず、思わずうつむいてしまった。


「拓海くんの方も、長いつき合いだって言いながら、いきなり君のことを連れてきたって言うし。本当はなにか事情があるんじゃないか?」

 ……どうしよう。下手に言い繕おうとすれば、聖司さんのことだから、私の嘘を見抜いてしまうかもしれない。なにも口に出せないまま、時間だけが過ぎる。

 押し黙ったままの私を見て、聖司さんはため息をついた。


「……まあいい。なにかあれば、連絡をくれ。いつでも駆けつけるから」

「え?」

 予想外のことを言われ、目を丸くしてしまう。