「お疲れ様です。総務課庶務係、清家です」
『秘書室の堂上です。お疲れ様です』
内線をかけてきたのは、社長秘書の堂上綾さんだった。5つ上の先輩である綾さんは、社内きっての美人でかなりの切れ者だ。あまりに仕事ができるので、おじさまがなかなか手放したがらないと聞く。
それでいて、実は酒豪。仕事柄、美味しくてリーズナブルなお店にも詳しい。入社当時から私のことを何かと気づかってくれ、月に数回飲みに行く仲だ。
『夏美ちゃん、今からこっちに来れる? この後お客様なんだけど、社長室の蛍光灯が切れそうで』
「わかりました、すぐ伺います」
私が返事をすると、綾さんはホッと息を吐いた。
『よかった、引き受けてくれて。ご褒美用意して待ってるからね』
「そんなの、いいですよ別に。仕事なんですから」
蛍光灯の交換だって立派な庶務の仕事なんだから、そんなに気を遣わなくたっていいのに。
『ううん、いいの。それじゃ私の気が済まないから』
「……そうなんですか?」
よくわからないけれど、あげるというものを敢えて断る必要もない。
「それじゃあ期待してますね!」
元気よく言って、受話器を置いた。
「どうしたの夏美ちゃん?」
「社長室の蛍光灯が切れそうらしいんで、ちょっと行ってきますね」
「了解。いってらっしゃい」
物品倉庫から新しい蛍光灯と脚立を取り、私は社長室のある13階へと向かった。


