「ああ、やっぱり萬栄堂の水まんじゅうは最高ですね。このつるんとしたのどごしがたまりません!」
「いい食べっぷりだねぇ。どれ、夏美ちゃん。私の分もあげようかね」
篠田さんが、まだ手をつけていない水まんじゅうの皿を私に差し出した。
「えっ、ダメですよ。これ篠田さんの大好物でしょ」
受け取らずにいると、乾さんが割って入ってくる。
「いいのよ、夏美ちゃん。篠田さんは夏美ちゃんに美味しいものを食べさせるのが生きがいなんだから」
「そうそう。だから遠慮しないでよ。はい」
そう言って、篠田さんが私のデスクに水まんじゅうの皿を置いてくれる。
「うわぁー、嬉しい。ありがとうございます!」
この二人のみならず、庶務係のメンバーは私のことをとても可愛がってくれる。
幼い頃からの夢だったプロ棋士になれなかったときはこの世の地獄だと思ったけれど……。
今の私はとても恵まれた環境にいると思う。
3人で午後のティータイムを満喫していると、庶務係の電話が鳴った。ディスプレイを見ると、秘書室と表示されている。
ああ、またお呼び出しだ……。


