反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

「お金があるなら、育てなさい」
 院長はそういうと、ヨリトに伸ばしていた手を下ろしドアを開いた。
 出て行けということだろう。
 私とリュートさんは、黙って部屋を出た。
 案内してくれた子が、ドアの外で待っていて、今度は出口へと案内してくれた。
 廊下ですれ違う子たちはみな礼儀正しく、そして痩せていた。
 
「ヨリト……どうしよう」
 王都を取り囲む壁。王都へと入るドアの前で立ち止まる。
 リュートさんが私の正面に立った。
「育てよう、二人で」
 その目は真剣だ。
「リュートさん?」
 リュートさんが片膝をついて座った。
 下から私の顔を見上げる。
「出会って2日目で、何を言っているんだ頭のおかしな男だと思われるかもしれないし……冴えないおっさんだが……結婚してほしい」
 右手が差し出された。
 リュートさんの大きな手の平。この手に、自分の手を重ねれば思いを受け止めたことになるのだろうか……。
「わ、私……」
 ドキドキと心臓は高鳴っている。

 出会って2日目で、尻の軽い女だと思われるかもしれないし、平凡な三十路女子だけど……リュートさんが好き。
 嬉しくて、今にも飛びつきそうな気持ちで心臓がうるさい。
 でも、だけど……。
「すぐにでなくてもいい。その、考えてほしいんだ。俺と一緒にヨリトを育てるっていう道もあるってことを……」
 返事を返さない私の気持ちをどう思ったのか、リュートさんが差し出した手をひっこめようとした。
 思わず、手を伸ばしてぎゅっと握る。
 あ、ああ!
 しまった!
「頼子?」
「約束してくださいっ!」
「約束?」
「私がいなくなった後、ヨリトをちゃんと育ててくれるって。私がいなくなった後、誰かと恋をして結婚して幸せになるって」
 リュートさんが驚いた顔をしている。
 そりゃそうだよね。プロポーズした相手からの返事としては誰かと結婚して幸せになってなんて……。
「それは、えっと、ごめんなさいってこと……だ、よな?」
 あ、そうか。確かに別の人と結婚して幸せになってなんて、私はあなたを受け入れられませんって意味だ。
 首を横に振る。
 ダメ、思ってることと、行動がちぐはぐだ、私。
 好きだもん。
 だって、やだ、好きだから……。離れたくないって思っちゃったんだもん。