反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 院長の言葉に、反射的に手がポケットに延びた。
「お金なら、私、寄付を」
 院長が顔を上げ、初めて感情の乗った声を出した。
「余計なことをしないでください」
「余計なこと?私は、子供たちにもっと食べてほしいだけで……なぜ余計なことなんですかっ!」
 お金がなくて十分に食べさせられないなら、お金があれば食べさせられるんでしょう?
「王都や周辺から集まった孤児たちが、100名近くいます。100名が毎日お腹いっぱい食べるのにどれだけの寄付が必要でしょう」
 100名も?

 1日300円プラスしたとして100名だと3万円。1か月で100万円近く……?
「あの子たちはこの状態に慣れています。もし、一度でもお腹いっぱいに食べてしまえば……おいしいものを知ってしまえば、それを失ったとき、もとに戻るだけですが、苦しみます。お腹いっぱいになりたいと、そのことだけで頭がいっぱいになってしまうでしょう。あなたは、あの子たちにこれ以上苦しめというのですか?」
 院長の言葉に歯ぎしりをする。
 院長に腹を立てたのではない。同情心で、いいことをしたつもりで、相手を苦しめるなんて想像もしなかった自分に腹が立った。
 そうだ。私が出そうとしたポケットの中のお金なんて、1週間の食費にもならないだろう。
 100円のパンで満足できていたものが、1000円のパンを知ってしまったとたんに100円のパンに不満を持つようになる……そんなことは日本だってある。教えてしまうこともまた罪だなんて……思いもしなかった。お腹いっぱい食べさせることの罪……。
「お、お金を、ずっとお金があればいいんですか?」
 王様に言えば、孤児院に予算を付けてもらえるかもしれない。
 院長は首を横に振った。
「私たちは、あの子たちに十分与えています」
「嘘です、だって、あんなにみんな痩せて……」
「大人になって、ここを出て行ったときにお腹いっぱい食べられる生活ができるだけのものを与えています」
 ここを出てから?
「文字の読み書き、計算、言葉遣い、身のこなし方、剣術、弓矢……どこのお屋敷に努めても恥ずかしくないだけのものを与えています」
 ポロリと、涙が落ちた。
 そうだ。
 知識は減らない。知識はなくならない。
 大人になったときに役に立つ。
 恥ずかしい。お金で何でも解決できるだなんて思った自分が。