反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 赤ちゃんの泣き声がうるさいっていうことを理由にするなんて、悪質どころの騒ぎじゃない。
 いや、でも、こういう人間がいるから、宿も赤ちゃん連れは宿泊を断られるんだ。
 男のまえに、リュートさんが立ちはだかる。
「代金がまだのようですよ?酔って忘れてしまいましたか?」
 男が、ぺっと唾を吐き出す。
「うるせー。こんな気分が悪い酒に金が払えるかっ!」
 リュートさんが男をにらむ。
「気分が悪いのは、家に赤ちゃんと体調の悪い奥さんを置いて飲み歩いているから、責められている気分にでもなったからですか?」
 男がカッと赤い顔をさらに赤くする。
「違うっ。俺だけじゃねぇだろ、皆、ガキの泣き声なんて聞くために飲みに来てんじゃねーだろっ!どけよっ」
 リュートさんの胸を男がどついた。
 リュートさんは少しもぐらつくことなく、逆にどついた方の男の体が揺れる。
「いててっ」
 男の腕をひねりあげるリュートさん。
「代金のお支払いがまだのようですよ?」
「くそっ、覚えてろっ!」
 男が小汚い言葉を吐きながら、お金を投げ捨てる。
「ま、待って!」
 リュートさんが男の手を放そうとしたのを止める。
 ここで、男の人を追い払うのは簡単だ。
 だけれど、そのあとは?男がまた来たら?
 覚えてろよ!と吐き捨てるような男だ。リュートさんのような助ける人間がいなくなった後にしつこくいやがらせをしに来る可能性もある。
 赤ちゃんの泣き声がうるさいと言うような自分勝手な男が。

「ほぎゃー、ほぎゃー」
 腕の中のヨリトはまだ泣いている。
 おなかがすいているんだろう。口に何かを入れるまで泣き続けるかもしれない。
「なんだよ、金なら払っただろう、そのうるせーの近づけるんじゃねー、くそっ」
「あなたはきっと、赤ちゃんを悪く言うので、赤ちゃんの呪いがかかっているんでしょう。だから、赤ちゃんの泣き声を聞くたびにどこかが痛むのでは?」
 スカートの中に隠れて、右足を左足で踏む。病傷転移魔法発動。相手はあの男。とんでけー。
「ほら、今左足が痛いんじゃありませんか?そこに呪いの影が」
 男がはっとして左足を見る。
「あら、呪いの影が頭に移動したようですね」