反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

「ああ分かった。じゃぁ、えーっと、部屋にいない方が落ち着いて眠れるだろ?食堂で」
「飲んでいいですよ。酒癖が悪くなければ。普段は飲んでるんですよね?」
 酒を注文しようとしてやめたていたのを知っている。
「ありがとう。じゃぁ、1杯だけ。この街に来たばかりだからな。情報収集かねて飲んでくるよ」
 ああ、そうか。
 女性が井戸端会議で情報収集するように、男性は飲み屋で酒を酌み交わしながら情報収集するわけか。
「1杯と言わず、宿泊料を無料にしてもらったお礼に、たくさんお金を落としてきてあげて」
「あ、ああ、じゃぁ、まぁ、もう少し」
 ガシガシと頭をかいてリュートさんが出て行った。
 あれは、酒好きの顔ね。
 さて、ヨリトくん、隣に寝かせてね。
 すーすーと規則正しい寝息が聞こえる。
◆★

 ヨリトの泣き声で目を覚ます。
 おむつを手早く替える。部屋にはリュートさんの姿はない。
 何時ごろかな?まだ食堂?
 蝋燭の明かりでテーブルの上を確認する。頼んでいたミルクはないので、まだお酒を飲んでいるかな
 何かヨリトの口に入れるもの。アンナさんが起きていればアンナさんに頼んで……。
 ヨリトを抱っこして食堂へと降りていく。
 ガタンっ。
 と、男が一人椅子を蹴倒した。
 食堂には、4組の客いた。椅子を蹴倒したのは、大柄でだらしなく髭を伸ばした男だ。赤ら顔で、テーブルの上には空になったジョッキがいくつも並んでいる。
 酔っ払いだ。
「うるせーんだよ、ガキの泣き声がっ!何度も何度も」
 え? 思わず身を固くする。
 泣いているヨリトをゆする。
「こっちはよぉ、気持ちよく酒を飲みに来てんのに」
 アンナさんの部屋からも赤ちゃんの泣き声が聞こえている。
 他の客たちの目が男に向けられる。
 テーブルの上には4つのジョッキ。赤ちゃんが何度も泣いて、気持ちよく飲めないというなら、1杯で出て行けばよかったんだ。
 出てかなかったのは自分なのに、何度も何度もって言うのはお門違いじゃない?
「くそ、気分がわりぃよ。金なんか払えるかっ!」
 男は、そのまま外へ出て行こうとふらつく足で出口に向かった。
「あ、お客さんっ」
 無銭飲食だよね。あれだ。
 しかもたちの悪い。言いがかりをつけて無料にさせようっていう……。ラーメンに持ってきたゴキブリ放り込む系のやつ。