反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 勝手に呼んでおいて、必要がなくなったら、どうするっていうのっ!

「勇者は黙っていないさ」
 リュートさんがちょっと怒っている。
 勇者に憧れでもあるのかな。
「だーだっ」
「あ、ヨリト、分かった、分かった。スープ食べたいね。ちょっとまってね、フーフーしてあげるからね」
 ヨリトが上半身を乗り出して、遠くに置いたスープに必死に手を伸ばす。
 遊びたいだけで食べたいわけじゃないかもしれないけれど。固形物じゃなくて、野菜の栄養が溶け込んだスープなら飲ませても大丈夫だよね。……幸い、消化が悪そうな肉の油も浮いてないし。蕎麦のようにアレルギーが起きたらやばそうな食材も使ってない。
 でも念のため。まずはほんの1滴、舌にちょんちょんと乗せる。
 しばらく時間をおいて赤くなったりぶつぶつしたり変な反応ないか見てからね。
「あー、すまん、すまん。勇者たちを馬鹿にしてるわけじゃないんだ。むしろ感謝してるよ。ある意味、3国は勇者、賢者、聖女をそれぞれが呼び出すという立場で平等。それゆえ長いこと国の均衡が保たれてきたと思ってる」
「まったくなー。寧ろ、3人そろって目的を果たした後、召喚が必要なくなった後は3国はどうなるんだろうなぁ」
「勇者が一番活躍した!とか聖女がいなければどうにもならなかったとか、それぞれが自分たちの国が一番だって喧嘩始めたりしてな」
「おいおい、喧嘩イコール戦争じゃないか」
「ってことは、3人そろわない方が仲良くして行けるってことか?」
「ははっ、じゃぁ、聖女召喚に失敗したのはありがたいことじゃないのか?」
「いや、そもそもその噂は本当なのか?」
「だから、嫁の従妹の友達の城勤めの、あれ?えーっとなんだったかな」
 酒も入ったおじさんたちは、陽気に会話を続けている。
 聖女召喚が失敗したのはむしろいいこと……?
 その言葉にほっとする。
「聖女には会えないのか……」
 ぼそりとリュートさんがつぶやいた。
「あの、もしかして、聖女に会うために王都に?」
 反逆の聖女なら目の前にいますけどね。
「あ、ああ、伝説の人物の顔とか見てみたいだろ?」
 そういうものなのかな。でも10年に一度だし、皆が噂するくらいなら、そうなのかも。
「勇者や賢者の顔も見たことあるんですか?」
 リュートさんが目を細めた。
「ああ。10年くらい前に一度」