反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

「自分で取りに行けってやつな、あれいいなぁ。他の客の料理とかも見ると何があるのか分かるし、ついでに注文もできる」
 ニコニコとお客さんたちに話しかけられる。
「何が美味しくてお勧めですか?」
 近くの席に腰かけて、会話を進める。夫婦じゃないとか、もういちいち否定するのはとっくにあきらめた。リュートさんも驚いたり特別な反応はもうしていない。っていうより、むしろ夫婦でもないのに同じ宿の部屋に泊まると思われた方が今は不都合があると、思う……。

「そうだなー。ここの料理はなんだってうまいぞ。そうそう、今日はいい熊肉が売っていたとか言ってたぞ。熊肉なんて、そうそう食べられるもんじゃないからな、食べてみるといい」
 く、熊?
 そりゃ、日本でも熊の手とかは美味とか言いますけど。
「俺が狩ってきたやつかな」
 へ?
 リュートさんの言葉に唖然とする。
「食べてみよう、気に入ったなら、また熊を狩るだけだ。頼子が望めば毎日だって食べられるよ」
 えっと、あれ?
 おじさんたちは、熊はめったに食べられないっていうし、リュートさんは毎日だって食べられるっていうし、どっちが正しいの?
 じゃぁ、そうしようかな……。と、席を立ちカウンターからご主人に声をかける。
「熊肉の料理と、スープ系の物を」
「俺も同じ物と、あとは酒……」
 リュートさんが私に抱かれているヨリトを見た。
「……は、やめて果実水を」
 すぐに果実水と鍋からよそったスープが出てきた。それをリュートさんがテーブルに運ぶ。
 何も言わなくても、ヨリトを抱っこしているのを見て気を使ってくれる。リュートさんすごいな。できる男だな。冴えないおじさんじゃないよ。気づかいのできる男性ですよ。
 テーブルに座って、食事を始める。器はヨリトの手が届かない遠くに置く。
 肉ができたと言われればリュートさんが取ってきてくれて、ステーキのように焼かれている肉を、食べやすいサイズにカットしてくれた。両手が使えない私のために。まじ、気遣いありがとうございます。
「うわ、おいしい……」
 熊肉は臭いって話も聞いたことがあったけど、全然そんなことはない。牛肉に近いけれど、牛肉よりももっとうまみがあるし、臭みも少ない。
「そうか。今は臭みも少なくて美味しい時期だしよかった。気に入ったんなら、熊狩りもっとしないとな」