反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 赤ちゃんに食べられるかと尋ねたうえで用意してくれるものであれば、この世界での一般的な離乳食なんだろうし……。とりあえず食べられるか確認するのにもちょうどいいかな。
「はい、お願いします。えっと、私は銅貨7枚の定食と果実水をお願いします」
「俺は、銀貨1枚の定食と果実水で」
 店員の20歳くらいの女性が注文を聞いて調理場に声をかけているのを見送る。
「ああ、それで、頼子……君は、その、日本人街出身なのか?黒髪に黒目なんて珍しいし」
 は?日本人街……?
 何、それ……?
「なんだ、お前たち、日本人街出身か!そうじゃないかと店に入ったときから思っていたんだよ。歴代勇者たちが作った街だろう?召喚された勇者様たちはそろって黒目黒髪だもんなぁ。ってことは、お前たちのご先祖様は勇者か聖女かはたまた賢者か!」
 隣のテーブルでお酒を飲んでいたおじさんが嬉しそうに声をかけてきた。
 ああ、そういうことか。
 私以外にも、昔、召喚された人がいて、その人たちが作った街……。もしくはその人たちが住んだ場所に日本人街と名付けたか……。
 胸の奥がつくんと痛んだ。
 帰る方法が……なかったんだと……。
 帰りたくなくてこの世界に残ったのだとしたら、日本人街なんて名前を付けなかったと思う。
 済む場所にそう名付けたのだとしたら……。
 帰りたかったけれど、帰れないで……この世界で生きていくしかなくて……。
 3年……。
 もし、3年で帰れなかったら、日本人街に行ってみよう。

 というか、聖女だけじゃないのかぁ。勇者……それから、賢者?そういう人たちも昔から召喚されてたんだ。
 ったく、それでこの世界の問題が解決されないのに、なんで繰り返し繰り返し召喚するのかな?
 ふざけんなと言いたい。
 しかもたぶん、昔召喚された人たちも「日本に帰して」って言ったと思うのに。全然、まったく、帰す気ないよね。方法を探そうともしてなかったんだよね。
 もうっ!
「あ、いや、俺は日本人街出身ではないんだ」
 男の人が否定する。
「そうか。でも、勇者の血は流れてるんじゃないのか?街を出た人間もいるだろうからなぁ。そこまで立派な黒目黒髪なんだ。何代か前の血が出たに違いないよ」
 と、おじさんが男の人の背中をバンバンとたたいた。
 日本人街出身じゃないのか。