反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

「かわいい赤ん坊じゃないかい。髪の色一つで捨てるなんてそんな馬鹿なことをするもんじゃないよ。ほら、ママの腕の中でこんなに安心しきってすやすや眠ってる」
 ママ?
 いや、違います。
「男の子かい?眉毛の形はパパにそっくりじゃないかい?将来が楽しみだろ?」
「パ……パパ……」
 男の人も唖然としている。

「じゃぁ、ちゃんと仲直りして。大丈夫、きっと何もかもうまくいくさ!」
 バンバンと女性は私と男の人の背中をたたいて去っていった。
「……あー、誤解、された?」
 男の人が口を開く。
「孤児院の場所……別の人に聞きましょうか」
 と言う私の言葉と同時に、男の人のお腹がぐぅっと音を立てた。
「すまない。移動中何も食べていなかったから。もし、君が良ければどこか店に入らないか?その、お礼におごらせてほしい。店で孤児院の場所も聞けばいいだろう」
 初対面の男性と食事か。
 日本じゃ考えられないよね。ナンパはお断りと、すぐに背を向けただろうなぁ。でも……。
 腕の中で寝息を立てているこの子ともう少し居たくて。食事をしながらなら、いろいろ話をしても不自然じゃないだろうから、ちょっとこの世界の情報を入手できるかもと……思うし。
「美味しい店があるといいですね」
 という私の答えに、男の人が困った顔をする。
「ああ、そういえば……二人とも街には詳しくなかったんだ……美味しいかどうかは保証できない」
 この世界の料理も、よく考えれば初体験だ。美味しい美味しくないの基準が日本とは違うかもしれない。
「ふふ、大丈夫ですよ、私、鼻はいいんです」
 これでも飲食店勤務。カフェ店員ですからね。
 美味しい店かどうかは、雰囲気や客入り、それからお店から香ってくる匂いでかぎ分ける自信があります。
「鼻?」
「ほら、おいしそうな匂いがあちらからしますよ、行きましょう。あ、それからおごってもらわなくてもいいですから。割り勘で」
 男の人が変な顔をした。
「割り勘?久しぶりに聞く単語だな……」
 ん?
 もしかしてこの世界は男は女にごちそうするのが当たり前な世界だったりしますかね?
 あー。
 ……女性が社会進出してないならそれも「差別」でもないし「女性優遇」でもなくて、現実として女性がお金を持っていないという大前提で成り立つ合理的な常識なわけだけど……。