反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

「鞄は、女性が使う一般的なものよりも、丈夫なものを持ってきました。旅人や冒険者が使うようなものです」
 冒険者。やっぱり、冒険者はいるのか!
 革でできた斜めかけの鞄を手渡される。
 うん、両手も使えるし、ハンドバッグより便利そう。
 革なら布よりも丈夫ってことかな。帆布のような丈夫そうな布とかなさそうだし。
「服は、えっと、これでいいですか?本当は聖女様には春色の服が似合うと思ったのですが、あいにく秋色のワンピースしか置いてなくて……」
 と、差し出されたのは、モスグリーンのワンピースだ。
 ……春色って、若草色みたいな緑のことだろうか……。それとも、まさか、桜色だとかタンポポ色じゃないよね?
 30歳女子が身に着ける色じゃないですからっ!
 よかった。なくて。
「着替えたいんだけど、更衣室とか……あー、移動がまた大変かぁ。その辺の部屋使わせてもらえないかな……」
 と、手近のドアをノックしてみる。特に返事がないので、ドアを開こうと思ってノブに手をかけたら、内側に自動で開いた。
「ひ、魔法?」
 と一瞬驚いたら、内側で侍女が頭を下げてドアを開いていた。
「白魔導士様、申し訳ございません。こちらの部屋はまだ清掃が終わっていません……」
 と、侍女が私の後ろに立っていた白ちゃんに話しかけた。

「ああ、いいんだ」
 ふーん。やっぱり白装束を着ている白魔導士さんってばエリートなのねぇ。お城で侍女が存在を怪しむこともなく様付きで呼ぶくらいだから。
「少し彼女に部屋を貸してくれる?着替えがしたいんだ」
 白ちゃんに言われて侍女が白ちゃんと部屋を出る。
 エプロンを外して、畳んで鞄にしまう。エプロンのポケットに入っていた砂糖とミルクはそのままにした。
 お金が詰まった巾着は3つ。一つをさかさまにして中身をテーブルに広げる。
 金色のものと、銀色のものと、銅色のものが混じっている。それぞれ大きいものと小さいものがある。……単純に考えれば金貨、銀貨、銅貨って、まぁ価値はおいおい調べればいいんで。とりあえず、たくさんお金の詰まった財布を持っているのを見られるのは危険なので、それぞれ、大きいのと小さいのを2枚ずつ巾着に戻し、残りは、他の巾着の中に詰め込んで、エプロンの下に隠し入れる。
 ブラウスとズボンはそのままで、上からワンピースを着てみた。
「着れた……」