反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 ろうそくは、なんだか映画で見た「魔法陣」みたいな形に並べられているようにも見える。
 そして、その中央に私が立っていて、目の前には謎の白装束のあやしい人が3人。
 ……どう考えてもやばい。
 店じゃない場所に突然移動するということも信じがたいけれど……。まだいれたてのコーヒーは冷めてないし、一瞬の出来事だということは、間違いないのだろう。
 ……瞬間移動?魔法陣みたいなものが本物だとすると、転移魔法みたいな?
 現実的でない出来事にどうしていいのかわからない自分がいる。でも、手にはコーヒーサーバーがあり、それがなんとか現実とつながっているような気がして少しだけ落ち着くのも事実。というか、目の前に見えている現実から逃避して、コーヒーに逃げているという話でもある……。
「あ、スプーンですか、すぐに持ってきます。あの、兄さんたちのカップもあったほうがいいですよね」
 と、白ちゃんが動こうとしたのを、白装束AとBが思わず立ち上がって静止する。

「ばかっ、聖女様にまず状況を説明するのが我らの役目だろう!」
「そうだ、そもそも兄さんと呼ぶなと何度言えば。少しでも正体が分かるような発言はダメだとあれほど」
「それに、そんな得体のしれないものを受け取るな!」
 得体のしれない?
 って、コーヒーのことよね。
 失礼しちゃうわっ!
「うちは、カフェですから。コーヒーを得体のしれないなどという人に来ていただきたくはありません。おかえりください」
 白装束AとBを睨み付ける。
 いや、当然でしょ。自慢のコーヒーを馬鹿にされて怒らない店長は店長失格よね?
「は?おかえりってあの、聖女様?」
 聖女様?
「出て行ってください!」
 ドアのある方を指さす。
「それとも、私がここから立ち去ったほうがいいですか?」
 AとBが顔を見合わせた。表情はわからない。っていうか、お互いもわからないだろうに、何かわかったのか……小さく頷きあい、白ちゃんの肩をぽんっとたたいた。
「私たちは、聖女様の召喚に成功したことを報告してくる。聖女様へのご説明はお前に任せる」
 Aが、その後白ちゃんの耳元……たぶん耳のある当たりに顔を寄せ、ぼそぼそと支持を出しているのか念を押しているのか、文句を言っているのか。その間にBが私に向かって頭を下げる。