反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 くるりと振り返る。さっきから、誰かにつけられてる気がしたんだ。
「出口まで案内してくれる?そのあとは、ついてこないでくれる?」
 私の後ろをついてきたのは、白装束の人だった。カルト集団的なやつ。
 すっぽり体を白装束で覆って、頭には先がとんがった三角のマスクをかぶって目元だけ穴が開いているだけの姿なのに個性がある。
 いや、違うか。黒装束の人間はあまり個性が見られなかったけれど、白装束の……今後ろをちょこちょこついてきたのだけは、個性的だ。
 あ、慌てて裾踏んでつんのめった。
 そう、この世界の呼び出されたときにも、この白装束だけは際立ってたよなぁ……と、思い出す。

 仕事中召喚された。
 カフェ店長30歳吉田頼子、それが私。
 右手にコーヒーサーバーを持ち、左手にコーヒーカップ。
「お待たせいたしました」
 乗せるべきカップソーサーもテーブルもなかったので、仕方なくそのままコーヒーを注いだカップを差し出す。
 目の前には3人の白装束の人間。
 いきなりなんだ?
 私、どうしちゃったんだろう?
 パニックに陥る時って、人間、とりあえず今やってたことの続きをしちゃうものなんだなぁと、つくづく思った。
 そう、とりあえずコーヒーを客に出すという……。
 3人のうち、二人は両膝をついて頭を下げた。
「ようこそ、聖女様」
 と、言っている。
 で、右側にいた白装束だけが、手を出した。
「はい、ありがとうございます」
 と、私の差し出したカップを受け取ったのだ。
「な、なにをしている、早く跪け!」
「勝手なことをするな!」
 と、他の白装束二人が慌てて小声で右側の白装束に話しかけていた。
「いい香りですね」
 と、右側の白装束……って、めんどくさいな。なんか白ちゃんとでも呼ぼう。あとの二人は白装束Aと白装束B。
「サイフォンで独自ブレンドのコーヒー豆を使って丁寧に入れていますから」
 褒められればうれしい。
「うちは、酸味も苦みも少ないコーヒーですので、砂糖やミルクを入れなくても飲めるという人も多いのですが……好みでミルクや砂糖を入れてください」
 と、制服のエプロンのポケットからミルクと砂糖を取り出す。
「あ、スプーンがないですね……」
 石造りの部屋。
 テーブルの一つもなく、あるのは床にこれでもかと並べられたろうそくのみ。