反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 まだまだ細くて折れそうな腕から、赤い血が。
「飛んでけっ!」
 人殺しのあの牢屋の男たちの元に飛んでけっ。
 少年の傷口からの出血が止まる。
「傷が少し浅かったかしら?」
 院長が再び少年の腕にナイフを当てようとする。今度は、傷つけられる前に院長の腕をつかんで止めることができた。
「離しなさい」
 院長の服をつかんで少年の血をぬぐう。
「傷が消えた?」
「私が、助ける……」
 助けられるかどうか何てわからない。
 わからないけど……。
 もう、何もしないなんて無理だよ。父さん、ねぇ、もしかしたら自分が何とかしてあげられたかもしれないってそんな後悔したことがあるの?
 わざわざほかに医者がいないところへ移り住んだのは、自分が何とかしてあげたいと思ったから?
「先生ありがとう、ありがとう」
「先生が来てくれたおかげで助かったよ。先生がいなきゃとっくに死んでた」
「先生もちゃんと体を大事にしておくれよ、先生がいなくなったら困るからねぇ」
「先生、これ食べて。うちで取れた野菜だよ。一番おいしいところ持ってきたで」
「先生」
「先生」
 ……そうだ。
 そうだ……。
 いやならあの村から逃げ出すことだってできた。
 いやなら、私のように何もかも放棄して城から逃げ出すことだってできた。
 でも、父はしなかった。死ぬまで村にいた。
 それが、答えなのかな。父さん……。

「聖女の代理なんていりません、院長……私が……聖女が……いるんですから」
 反逆の聖女だ。
 聖女じゃない。
 だから、どこまでできるのかわからない。でも、でも。
「え?」
 院長先生が驚いた顔をして私を見る。
「力が及ばないかもしれませんが、私が、鬼退治に行きます。ですから、どうか……この子たちのことは……孤児院で大人になるまで、面倒をみてあげてください」
 院長先生が泣いている。ぎゅうっと抱きしめた。
「聖女さ……ま……」
「あなたも、神に選ばれたのです。院長……辛い役割を、耐えて耐えて……子供たちのために、この世界のために……ありがとうございます」
 上から目線で何様だって、そう思うけれど、でも。言わずにはいられなかった。
 院長先生は、どれほどこのシステムの秘密を抱えて苦しんでいたのか。
 ……鬼がいるせいで。
 鬼が、退治されないせいで……。