反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

 ……もしかして、それは……。鬼に差し出すまでに食事制限をして、骨と皮ばかりになってから差し出すってことだったの?
「鬼ってなんなの?鬼なんて、倒しちゃえばいいじゃないっ!」
 孤児院の子供たちが大人になって働いている。きっと、鬼の子が生まれる周期はそれほど早くないってことだよね。ってことは、鬼ってそんなに数がいないんでしょう?
 だったら、皆で力を合わせればやっつけられるんじゃないの?
 桃太郎だって、一寸法師だって、鬼をやっつけたんだから……。

「それができないからっ!それができないからっ!」
 院長先生は最後に怒りのこもった目を私に向けて部屋を出て行った。
 あの怒りの目は私にではない。どうにもならない世の中への怒りだ。
「白ちゃん……聖女の召喚って……鬼を倒してもらうため……なの?」
 聞かなかった話。
 私の都合なんて無視した強制的な召喚に腹を立てて何も聞かなかった聖女の召喚理由。
「もう何千年も前から、いろいろと鬼を倒すために人々は戦ってきましたが……。人類が滅亡する危機を何度か迎えるだけで、成果が上げられませんでした」
 滅亡。
「鬼たちも、人類が滅びてしまえば食べられなくなるということは分かったようで、女子供は食べない。むやみに数を減らすように襲わない、その代わりこちらから定期的に生贄を差し出す……と人と鬼との間に約束を交わしたのがおよそ1000年前のことです。そこまでは、ほとんどの人が知っていることです。まさか、鬼の子に孤児を……そんな約束があったとは僕も知りませんでした……もしかすると、黒魔導士は知っていたかも」
 人類を守るために犠牲になっている子供たちがいる。
 人類を守るために心を痛めている大人たちがいる。
「それから、もう一つ、皆が知っていること。同じくおよそ1000年前。神の子と言われる者が信託として勇者と聖女と賢者を召喚し鬼を滅ぼすことができると……そして、同時に召喚の方法も神託を受けたと」
 神託。
「実際に、召喚することができたため、3人そろえば鬼を滅ぼすことができると、皆信じています。ただ……3人そろうことが叶うことはなく……」
 どうしよう、どうしよう。
 父さん、父さん……。
 鬼なんて怖いし、自分がなんでって思うし、自分の身を犠牲にしてまで誰かのためになんてそんなの……。異世界のことだし、なんで私がって。