反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~

「あと、手を切ろうとしたあなた……は、なんか手がちぎれかかっててかわいそうだけど、こういうところを情に任せて不公平にする主義じゃないから。慰謝料。手が落ちちゃえば一生の障害を負うことになるわけ。ってことはね、治らないの。これから得るはずだった収入分まで払える?保険なんてない世界だと、もうあなたの人生終わりね。ああ、もうその手じゃ同じ仕事できそうにないからもう終わってしまったかしら。……そうだと、私に支払われる慰謝料も払えないと困るのよね。……そもそも、陛下の命令に一番忠実だったあなた一人が責任を取るなんて不公平かもしれないし。うん、公平にしましょう」
 と、周りに立ち並ぶ騎士たちを見まわした。
 ガサゴソと、懐をあさって、巾着袋を取り出し始める。
 あー、いや、皆でお金を出し合おうっていう仲間意識は立派だけどねぇ。ん?どうもそうじゃない感じの人もいる。青い顔して震えてるし。
「この場にいる騎士全員に転移」
 手をかざすと、すぐに「うっ」といううめき声が聞こえてきた。
 騎士の傷は、切り傷程度まで回復している。

 この場にいる騎士たちの腕に同じような傷が全員にできただろう。
「あー、慰謝料に関しては、年収2年分くらいの金額になると思う。いろいろ交通事故にあって保険の請求をする人の相談もされたから……そんなに遠い数字じゃないと思う。で、もう重たくて持てないから、そのうち取りに来ると思う。じゃ。3年と待たずにさっさと日本に帰してくれることを期待してるから」
 ……上司に逆らえなくて、仕方なく……という話とすれば、慰謝料をしでかした本人に請求するのはおかしいだろうというのもわかってる。
 だけど、命じられれば人殺しもするっていうのには納得できない。躊躇して動かなかった……本来は命令されればすぐに動くべきなんだろうけど、泣き叫んでる生後間もない赤ちゃんを殺すなんて、命じられて「はい分かりました」と実行する方が私には信じられない。
 いくら命じられたからと言って「できません」と一度は抵抗してみせたっていいと思う。
 そのうえで「やらねばお前を殺す」と言われたら……まぁ、何ていうか……。苦渋の選択……って、騎士みんなで団結すれば抵抗できそうだけどね。
 王の間を出て、ずんずんと廊下を歩く。
 ……ずんずん。
 って、出口どこ。