ガタン。



少し揺れる電車の中。



混み合う車内には



電車特有の匂いや



雑音が漂っている。



顔を上げた萌の



目の前にアラタの腕。




萌を守るように、右腕だけ



ドアについて



人を背中に立ちはだかっているアラタ。



萌はまた、下を向いた。



電車内でほぼ無言の2人。



〝お詫びしたい〝



そう言ってくれたアラタ。



萌はそんなアラタに



ほんとに



お願いをしてしまった!



『出来るなら…



一緒に電車に乗ってほしい。』



萌がそう言うと


キョトン。



とした顔してたな、このひと。



今日は、バイトの帰りが




クビのおかげで早くなって



帰宅ラッシュとぶつかる。




時間ずらせばいいけど。



そうすると、今度は駅からが



暗くて、やっぱり怖いし。



今日はもう



早く家に帰りたいから…



萌にとって、帰宅ラッシュの電車に



一人で乗ることは



チカン遭遇率100%で



すごい恐怖ミッション。




ギュ。胸の前でカバンを抱きしめている



萌に



「大丈夫?」アラタが声をかけた。



「え?」



「いや、何か。顔色が…



緊張してる?」



「う、うん。」



あ、そっか。



萌の前にはアラタが立っていて



萌には誰も近づけない。



サラリーマンのスーツのひととか、




おじさんとか、たくさんいるけど




大丈夫なんだ…。



ほっ。



紅葉(くれは)と乗っていても



やっぱりちょっと緊張しちゃうけど。




そっか。



男の子がこんなふうに、一緒にいてくれたら



…こんなに、安心するんだ。




「うううん。」



萌は急いで言い直した。



「アラタくん?



がいてくれるから、すごい



安心する」



そう言って、嬉しそうに笑う萌。




「…そ?」 



アラタはそうそっけなく言った。