…。




ママ。




…辞めるも何も



わたし。クビでした。



…マジですかー




半ば、たましい飛ばしたように



気のない顔で聞く萌に



『君が悪いわけじゃないかもしれないけど…



正直、こんなにトラブルが多いとね。



うちじゃないとこで働く方が



君にとっても、いいんじゃないかな』



言いにくそうに、でも



はっきりと店長が告げた。



そんな理由で、



…クビ。



もう、サイアク。



スッカリ重くなった足取りで



萌は、裏口から



お店を後にする。







もう、今日は


サイアクのサイアクのサイアク。




気分はどん底だっ。




うわーん。



もう、泣くしかないよね。




…なんて、とりとめもなく



ネガティブなことばかり考えて、



トボトボと歩く萌。



やっぱり、わたしには…








裏口は



表通りから一本入った路地にあるから



喧騒は聞こえるけど


人はまばら。



そんな通りにある




レンガで出来た膝高さの花壇に誰か



いる。







腰掛けてたのは



さっきの…



アラタ。



何よ。




まだ、さっきのケンカの続きする気?



萌に気づいたアラタが、立ち上がる。



な、何よ。




やめてよ。



こわいじゃん!



身構える萌。



アラタが小走りにこっちに来る。



やだ。こわ。



アラタが萌の前に来て。




バッ。



勢いよく、頭を下げた。



え?



「ほんっっっとっ!



ごめんっ…



なさいっ」



「おれ、なんか



ちょっとイラついてて」



「マジ、こっちが100%悪いのに


あれ、


ただの八つ当たり。



ごめん。



そのせいでクビになるとか



…マジ、ごめん。」



両手を合わせて、何度も謝るアラタ。




さっきとは違うひとみたい…



こんな感じのひと…なのかな。普段は



よっぽど、ムカついたのかな。



わたしに言われて。




あ、でも



このひとが怒ったのは



自分のことじゃないんだよね。



トモダチのことで怒ったんだよね。



一生懸命謝るアラタ。



多分、クビはこのひとのせいじゃない。



今までの積み重ね。



それに、



わたしも、決めつけて



ひどいこと、言っちゃって




わたしも、悪かったのに。




「いいよ。




わたしも…」



萌がアラタを指差して




「何も知らないのに、



いろいろ言っちゃったし」



「ごめんなさい」萌が謝る。



「いや。俺らは全然



あんなこと言われんの、慣れてんのに。



何かマジで、


制服着てるのが悪いみたいなヘンなこと



言っちゃって



なんか、詫びできればいいんだけど」



頭をかくアラタ。



そんなアラタを見て



萌は思ったの。



何か、何か



もしかして、私たち



似てる?



見た目で決めつけられたり



それで、ディスられたりするの



慣れてるから、なんて思ってるとこも…。



「気にしないで。



お詫びなんて、大丈夫だから」



そういう萌に



「そう?


…何か、ほんとっ。




ごめんね。






…じゃあ」



立ち去りかけるアラタ。



その背中を見ながら



あ…。萌は気づく。



アラタにしてほしいこと…ある。



もし、出来るなら



してもらえるなら…。



でも…どうする?



もう、行っちゃうよ?



頼むなら…今しか…。




クイ。



アラタのシャツに引っ張られた抵抗感。




「ん?」



アラタが振り返ると、萌が




アラタの腰のとこのシャツを掴んでいて…



「お願いが…ある。」



そう言った。