校内の廊下。



人をかきわけて



萌の手を引いて、歩くアラタ。



さっき、手洗い場で



汚れを落とすように



水浴びしたアラタは、




頭からタオルをすっぽりかぶって




びしょ濡れの体操着姿。



萌の手を握る



アラタの手は、力強くって熱い。




どっかフワフワした気持ちの萌は




どこ見たら、何したらいいか




わからないみたいな




変な気持ちで




引っ張られて、歩くだけ。




アラタくんが前向いてて、良かった。



多分、今



私の顔見たら…




どうしよう。



きっと



わたし



すごい、変な顔してる。



多分顔も赤いし。



空いてるほうの手で、自分の頬に



触れてみる。



熱い。



何か。今は



ちゃんと、普通の顔できる気が



しないよ。



だって、今だって



後ろ姿なのに直視できないんだもん。



アラタくんのこと…。



自分の心臓の音が



うるさすぎて



手からアラタくんに



伝わるんじゃないかって



変に焦ったり。



私の手、汗ばんでるんじゃないかって



心配になったり…



1秒ごとに、違うことで



ぐちゃぐちゃ考えちゃう。



もー……。




アラタくん




私のこと、ドキドキさせすぎだよ。




カッコ良すぎて…困る。



アラタはそんな萌の気も知らずに



おーアラターって、声かけられるのを



半ば無視するようにどんどん



進んでいく。



たまらなくなって



萌が後ろから声をかける。

  

「ア、アラタくん?



あの…離して?」



ちゃんと、ついていくから。



そういうつもりで、言ってみたけど。



アラタは前を向いたまま



「…ダメ」ってひとこと。



そのまま萌の手を引っ張って、



歩いてく。




え?




なんか…もしかして



怒ってたりする?



勝手に来たことかな?




アラタくんらしくない返しに



ちょっと戸惑っちゃう。



ガラっ。



アラタが急に立ち止まり、



教室のドアを開けた。




上には機械科のプレート。




アラタくんのクラスだ。



そのまま腕を引っ張るように



萌もクラスに入れると



振り返ったアラタが



ガチン。



教室のドアをロックした。




え?…。