ガタン。電車が揺れた。




はっ。



誰かの手がお尻に…触れてる。





やだ。




あれからずっと、もう



気、張って。




前まではチカンから




逃げるように電車のドアに




張り付いていた萌。




でも、そんなことやめて。




ちょっと、変な人に見えるだろうけど。




防犯ブザー片手に見えるように持って




ドアを背に



電車の中に、向き直って




絶対されないっ!って



頑張ってたおかげか、



ずっとチカンに



合わなかったのに。



アラタくんのとこへ急ごうと




忘れちゃってた。




防犯ブザー。防犯ブザーっ



どこ。



動く方の手でカバンを



探ろうとする萌の手が



誰かに掴まれる。



えっ。やだっ。なに。



耳元で湿ったこえ。




「…はあ。



あの、じゃまな



若造がやっと、消えたねえ。



消えちゃったねえ。



はあ。おじさんが慰めてあげるよ。」




ゾワッ。肌が粟立つ。




やだ。やだ。やだ。



「しー。静かに。」




萌の手を持つ手にチカラが加えられた。



やだっ。



ほんとに、耳元のすぐ近くで



感じる吐息。




叫び出したいのに…



萌の喉はひきつれたみたいに



…声が出ない。



こわい。



右の脇に手の感触。



指が、入ってくる。