…。




夜の街で




目前を行き交う車。




クラクションの音も、



少しこもったように聞こえている




どこかの音楽も



自分のいる場所のガラス一枚隔てた




向こう側の世界みたいに



遠くで聞こえる



今。 



左に行くと駅。



右を選べば



…アラタくんのところへ。




一歩、一歩、




進む足が



急いでいく。





頭の中で店長の声。





『知らなかったの?



キミをクビにした日、あの後。



彼が店に来て、



全部自分のせいだから。って、



クビを撤回してくれって。



お願いしますっ。



って、頭下げられて…。



まあ、クビ撤回どころか、



厨房に配置変えできないのか




って、提案?



いや。説得までされちゃってね』




ハア。



自分の乱れる呼吸音が



耳元で聞こえる。




いつの間に走り出している自分。




スタンドで、



ミサキさんが言う。



『アラタ?



今日バイトじゃないよ。



あの子。確か、えっーと。




月…木、金だもん。週末は不定で



出るけど。



バイト始めたときからそうだよ?



火曜日はないよ。



どうしたの?萌ちゃん?」










どうして?




どこまで。




アラタくん。



胸のずっと奥のほうが




今まで感じたことない感情で




いっぱいで…




苦しいくらい…。




ごちゃごちゃ




もう、考えなくていい。




〝トモダチ〝でも




こんなに…




わたしを大事にしてくれていた



アラタくんに




伝えたい。






もう。今すぐ



泣きじゃくりたいぐらい。





アラタくんが、好き。




いま、今すぐ。




もう、伝えたくて。





電車の中なのに、走りたいくらいなの。