しなだれかかるお姉さんを



振り返りもせず、




駆け出して行った。




見送る純とコウタたち。




「…あれ。



そうなん?」



純がいう。




「知らんかったん?



そうだよ。」



コウタが答える。



タケルが叫ぶ。




「何で2人して消えんだよーっ。




ありえねーっつ」




そう駆け出して行ったのは



アラタ








奏。









奏は駅前で途方にくれていた。




ブォーン。プップー。



近くで車のクラクションが響く。




いつのまにか



街は夜が追いかけてきたみたいに




色を変えて。




ショーウィンドウや



ネオンばかりが明るい。



…見つけられない。



制服姿の女の子たち



今から街で遊ぶお姉ちゃんたち



いろんなかわいい女の子たちがいるのに




…紅葉だけ



見つけられない。



ていうか、おれ



アイツの家も知らねえし。



探しようねえじゃん。



無理じゃね?



そう思うのに




アホか。



勝手に走る



自分がいる。




紅葉がバイト終わりに乗るバス停。




いない。




ハア。



息上がる。




バス停の向こう。




頼りない街灯が照らす歩道の先。




周囲に視線を巡らす奏の視界に



歩く後ろ姿。




奏の心臓が



走ってたときと比べものにならないくらい




跳ねた。




紅葉。





見つけた。




ケホっ。




紅葉の少し後ろで、足を緩めて




息を整える。



「紅葉」



仄暗い街灯よりも




明るい月に照らされた




紅葉の後ろ姿に声をかけた。




びくっ。




驚いたような紅葉の肩が震えた。




反応したくせに



まるで聞こえていないかのように




また歩き出す紅葉。




「紅葉。



紅葉さん?」



「まーまー。ちょっと相手してよ



お姉さん」




「キレてる…な。



あれは別に、ワタルが



ツレが勝手に連れてきただけだぞ?」




「くーれはちゃん」



奏にしては珍しいのに




機嫌とるような奏の声にも




振り向きもしない紅葉。



奏の言葉だけが、静寂に消える。






おれ、



結構走ってきたんですけど。




え?何これ。



完全シカトって。




おれ、ナンパして



ムシされてるみたいじゃね?



奏なんか相手にしない



足をとめない



かろうじて頬が見えるくらいの




紅葉のカタイ横顔。





…おれ



いっつもコイツ追いかけてんな。







…めんどくせえ。




『もういいや。』




奏がそう言いかけたとき、





紅葉が立ち止まった。





「何?」




紅葉の冷たい声。





「…別に。



私に言い訳なんてしなくていいよ?」




「関係ないんだし」




こちらを見ないまま



淡々と言う紅葉。




…あほらし。



はなから俺なんて相手にしてないってか。





きびすを返しかけた奏。




「お互い…



だから、わたしが



他の男の子と遊んでも関係ない」



ひとりごとみたいな紅葉の言葉に




思わず奏の足がとまる。



「ちょい待て。



紅葉さん?」



思わず紅葉の肩に手をかけた奏。




だけど、紅葉は逃げるように走り出した。




おいっ。




なんだよ。何で逃げんだよ。




また、鬼ごっこか?




かけていく紅葉に




「あーもうっ。紅葉っ



待てって!」



叫んで、追いかける。