(この状況って,普通に考えたらクビ宣告だよね……。どう考えても)
 たとえ本人に思い当たるフシがなくても,他人の目からは分かる解雇(かいこ)理由があるかもしれない。
 美咲は覚悟を決めた。
 どうせ解雇を言い渡されるなら,言われる(がわ)の人間もそれなりに心構えをしておいた方が受けるダメージは少なくて済む。
 それに……。美咲は高校まで空手(からて)部に所属し,高三の夏までは主将(しゅしょう)を務めていた。
 勝負の世界に身を置いていた者として,土壇場(どたんば)でうろたえるようなみっともないことはしたくない,というのが彼女の性分(しょうぶん)でもあるのだ。
「――で,店長。あたしを仕事中に読んだ用件って何なんですか?」
 やっと人気の少ない休憩(きゅうけい)室まで来て,美咲の方から大橋店長に(たず)ねた。
「えーっとね,ヒジョーに言いにくいんだけど……。堀田さん,来月から君との契約を継続(けいぞく)できなくなりました」
「は?」
 "やっぱりな"と思うのと同時に,美咲は唖然(あぜん)となる。
 そんな遠回しに言わなくても,言わんとしていることは分かっているのだ。
「申し訳ないけど,今月いっぱいで辞めてもらえるかな?」
「つまりクビ……ってことですか。解雇される原因は?」
 どんな理由があるにしろ,ちゃんと話してもらわないことには納得(なっとく)して退職,というわけにはいかない。
「堀田さんに悪いところがあったとか,そういうことじゃないんだ。会社側の都合っていうのかな。人員削減(さくげん)っていうか……」
「要するに,"リストラ"ってことなんですね」
 美咲の中では最悪のパターンだった。
 自分に()があっての退職勧告(かんこく)なら,すんなり「はい,そうですか」と(あと)(くさ)れなく辞めてもいい。
 でも,会社の都合によるリストラとなると,もう「仕方ない」と(あきら)めるしかない。何を(うった)えても決定が(くつがえ)ることはないだろうから。