「あれ?七瀬さんと、あれは……結城だ」
俺は、樹の言った声に耳を傾けた。
───結城?
俺は、聞いたことのない名前に反応する。
誰だよ、結城って……
そもそも、星祈が親しげに男と話している所をあまり見たことがない。
ズキッと胸が痛む。
「なんか、随分と七瀬さんと結城、楽しそうにしてるな」
「………」
「碧都、お前、本当にモタモタしてると七瀬さん、取られるかもな」
たぶん、樹はからかい半分で言ったんだろうけど、
今の俺には、からかわれたことに反論する気にもならない。
嫉妬、焦り、不安……
モヤモヤとした感情に支配されていく。
「……先、戻る」
「はっ?」
俺は、手に持った幻のクリームあんぱんを強引に樹に渡して、その場から急ぎ足で教室へと向かう。
星祈が他の男と話しているだけで、イライラする。
他の男にも、笑いかけていると思うと、嫉妬でどうにかなりそうになって、
どうしてもその場から離れたかった。

