パンと自分の頬を一つ叩くと気合を入れなおして、子ども達を出迎えるべく朝の準備の再確認。
 真新しいラックにテーブルと椅子。
 下駄箱の名前の表記、そんなところに抜けも漏れも無いはずだけど念のため。

 そんな落ち着かなさそうな私を見て、みんなはニコニコと笑っている。

 「なにも笑わなくっても……」

 ちょっと私が控えめに文句を言えば、みんなはますますニコニコと笑いが絶えない様子。
 ちょっとふてくされてみるものの、仕方ないと言える。

 キャロルさんは親世代だし、ミューナさんにマロンさんにフレイさんもみんな五歳以上年上なのだ。

 最年少で、落ち人となれば彼らからすれば可愛い子どもや妹分でしかない。

 すっかり子ども達より前に可愛がられるポジションに置かれてやや複雑な気分を味わっているものの、嫌なわけではない。

 自分には兄弟はいなかったし、ちょっと新鮮ではあるのだ。
 そんな中で、園舎に向かってくる人影かちらほらと見えてきた。

 さぁ、保育園のスタートだ。

 私は登園してくる子ども達を迎え入れるべく、園舎を出たところで驚くべきスピードで駆けてくるネコ科の子どもの集団に一瞬驚きすぎて反応が遅れた内に子どもたちにわっと囲まれてしまった。

 子どもと言っても大型のネコ科の子ども達である。
 後ろ足で立ったら、すでに私の背丈とそう変わらない子までいる。

 「わぁ、本物の落ち人だ。ニーナの言った通り、可愛いお姉さんだね」

 一番近くに来て後ろ足で立った子は鞄の名札でマーキス君と判明。

 彼はマロンさんと同じくトラのよう。
 縞模様の入ったちょっとがっしり目の前足て器用に顔を撫でている。

 「初めましてハルナ先生。僕、マーキス」

 「はい、初めまして。ご挨拶出来てえらいね、マーキス君。おはようございます」

 「うん、おはようございます。ハルナ先生」

 ニコッと笑うと良い感じに牙が見えるけれど、雰囲気からしていい子なので怖いとは感じなかった。

 続々と囲んできた子ども達から一斉に声を掛けられててんやわんやしていると、そんな集団の枠の外から声がした。