続・電話のあなたは存じておりません!

 或叶さんは私がワイングラスを倒したせいで落ち込んでいると勘違いして、「気にしないで?」と優しく声を掛けてくれる。

「……はい」

 レストランを出て、ホテルのロビーを通り過ぎた所で、ポソっと独り言がもれた。

「……なんか。私ばっかりがシたがってる」

「え?」

「………え」

 振り返った彼と数秒目が合った。

 或叶さんは不思議そうに目を瞬き、微かに首を傾げている。

 ーーうそ、私ってば、声に出てた??

 途端に自分の言動を恥ずかしく思い、私は手で口を押さえた。一瞬で頬に熱が広がる。

「ああの、今のは別に、なんでもっ……」

 彼が私の真ん前に立ち、躊躇なく私の右手を繋いできた。

「明日、休みだったよね?」

 言いながら、出口とは別の方向へと歩いて行く。

「……あ、はい」

「じゃあ。今夜は泊まりでも大丈夫?」

 ーーえ、それって。

「ごめんね、下心いっぱいで恥ずかしいけど……なかなか切り出せなくて」

 或叶さんはエレベーターホールで一度足を止め、ジャケットの内ポケットから長細いバーに繋がれた銀色の鍵を出した。

「実は上に一つ、部屋を取ってあるんだ。来てくれる?」