続・電話のあなたは存じておりません!

 考えたところで分からず、頬に落ちた後れ毛を耳に掛けた。

「谷崎専務のお嬢さん、そろそろらしいよ?」

「え……」

 由佳の隣りでコソッと沙奈江が囁いた。

「結婚式。今日お嬢さんと式場に行くらしいって営業部で聞いたの」

「へぇ〜」

 由佳が呟き、「いいなぁ、私も早くしたい」と天井を仰いだ。

 ーー結婚、か。

 私と或叶さんはまだまだ先の話だ。

 今、目の前にある問題を片付けておかないとそっちには進めそうもない。

 *

 夜になり、或叶さんが言葉どおり迎えに来てくれる。

 金曜日、エレベーターで顔を合わせて以来なので変な緊張感が車内を満たした。

「今日で。ちょうど一カ月だったよね?」

 或叶さんの優しい眼差しを隣りから感じて、気持ちが緩んだ。

「はい。あの……」

「うん?」

 ーー昨日は本当に仕事だったんですか?

 喉元までそう出ているのに、言葉が続かず、私は「いえ、なんでも」と言ってぎこちなく笑った。

「昨日はごめんね?」

「えっ」

 一瞬、心の中を読まれたかと思い、ギクっとなる。私は曖昧な手つきで胸元を触った。