続・電話のあなたは存じておりません!

 由佳ってば覚えてくれてるんだ。嬉しいな。

 間違い電話の相手が彼だと分かって、初めてデートをしたあの夜から今日でちょうど一か月だ。

「ところでさ、プレゼント良いの買えた?」

「まぁね」

 ふふっと笑い、黒いヒールに履き替えた。

「プレゼントって何?」と沙奈江が聞き、由佳が「或叶様の誕生日の」と説明している。

 彼の誕生日デートに向けて、私は頑張らなきゃいけない。

 浮気疑惑は完全にグレーだけど、まだクロになった訳じゃ無いし、本当の本当に、仕事だったのかもしれない。

 ロッカールームを出て、私たちは受付の定位置に座った。

 午後になり、エレベーターから谷崎専務が降りて来た。

 少し小太りの優しそうなお父さんタイプの人だ。

 どこかお出掛けだろうか?

 こんな昼下がりの時間に滅多とない事なので、何となく不思議に思いながら「行ってらっしゃいませ」と一礼する。

 顔を上げた時、私はぎこちなく笑みを固めた。

 ーーえ。なに?

 谷崎専務は私の顔をジッと凝視して、呆れ顔で溜め息をついた。

 どうしてあんな反応をされるのか首を捻る他ない。

 ーー私、何か。仕事でミスしたの…かな?