電話のあなたは存じておりません!

 まさに意表を突かれたという表現がしっくり来るかもしれない。

 たちまち彼の頬が赤く染まり、動揺から瞳が忙しなく左右を泳いだ。

「そ。それは……。願ってもない申し出、だね?」

 そう言って彼は、テーブルに置いていた私の右手に彼の左手を重ね合わせた。

「勿論、喜んで受けるよ。ただ、出来れば……その……」

「何ですか?」

 来栖さんの頬を染めた熱が耳にまで達する。そんな彼を見て、私は口元を緩ませた。単純に、可愛いと感じていた。

「……結婚を前提に、だと。もっと嬉しいんだけど」

 言いながらチラリと目を覗き込まれて、私は「ふふっ」と笑う。

「それは、あなたをもっと知ってからじゃないと」

「……ハハ、相変わらず手厳しい」

 社会人同士の付き合いといった雰囲気で食事を終えて、私たちはお店を出た。

 エレベーターを乗る間際でぶらりと下ろした手を繋がれて、またドキッとする。

「一年後、芹澤さんに結婚したいと思って貰えるように頑張るから」

「はい」

 繋がれた手をギュッと握り返して、私は彼の肩に寄り掛かった。少しの()を置き、唇にほんのりとした温もりが降って来る。

 ふわっと香るムスクの香水が鼻腔をくすぐった。

 目を開けると彼は恥ずかしそうに視線を逸らし、「続きはまた今度」と呟いた。


   ***END***

本編終了です。ご閲覧いただき、ありがとうございました♡

「続き」は続編でどうぞ(*^^*)