それどころがもっとこの人について知りたいという欲求に駆られた。

 きっと声がその最たる原因だろう。初めて聞いた時にも思ったが、張りのあるよく通る声だ。

「……一つだけ、念押しして聞いても良いですか?」

『どうぞ?』

「私のストーカーさんでは無いんですよね?」

 彼が『ハハハ』と顔を崩して笑う気配がした。

『ストーカーにさん付けするんですね、芹澤さんらしいです』

 ーー私、"らしい"?

 やはり不満だった。

「クルスさんは、私の人となりに詳しいんですか? やっぱりその言い方じゃあ、」

『あ、ストーカーでは無いです。……多分』

「多分?」

『別にあなたをどうこうしようとか思ってません。ただ』

「ただ?」

『あなたと話すのは楽しいです』

 ーー何だそれ。

 *

 翌日の午後八時半にまたスマホが鳴った。

下四桁0620の番号は既に【権兵衛のクルスさん】と登録してある。

『芹澤さんですか?』

「はい。今晩は、クルスさん」

 昨夜、内面を褒められた気がして私は上機嫌だった。

 顔もフルネームも分からない声だけの相手に、ウキウキと心を弾ませるなんて妙な話だ。

『大型連休もそろそろ終わりですね。芹澤さんは明日から仕事ですか?』

「はい。クルスさんは?」

『同じく。と言っても、僕は休みがあって無いようなものなんですけどね』