21時過ぎに帰宅すると、ちょうど風呂上りの咲花がダイニングでお茶を淹れているところだった。

「佑、おかえりなさい」

咲花がにっこりと笑う。その顔を見た途端、心拍数が上がった。
さきほどの傑の言葉が蘇る。咲花が好きなのは……

「お茶飲む?」

アルコールが入っているせいもあるけれど、咲花の笑顔に吸い寄せられるように近づいてしまう。間近く見下ろした咲花はいい匂いがした。いつもの咲花の香りが風呂上りだと甘やかに匂いたつようだ。

「佑?」
「咲花」
「どうしたの?」

咲花が小首をかしげて俺を見上げる。上着も脱がないまま、俺は咲花を抱き締めた。
咲花がびっくりして身を硬くした。息を詰めて、カチンコチンになっているので、俺は慌てて身体を離した。

「えっと、外が寒かった……んだ」

勢いで何をやってるんだ、俺は。言い訳がましく言うと、赤い頬をした咲花がうんうんと納得したように頷いた。

「なんだ、そっかあ」
「いや、本当に寒いんだ。もう冬だな」